子どもは道具じゃない

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何年たっても子どもができない。それを口実に、夫が浮気をする。l世間には、案外そんな夫婦が珍しくないらしい。
もちろん夫の身勝手ではあるが、そういう妻もどこか冷たく醒めているタイプが少なくない。
なのに私のところへせっせと通って、妊娠できるようにと治療をつづけていた。
「だって先生、今度結婚したとき、すぐに赤ちゃんができるようにしておきたいんですもの」もう完全に離婚する気なのである。
B夫人は、違った。ご主人は、まるで公認みたいにせっせと外泊し、年に一度は愛人を取り替え、ときには奥さんに紹介したりする。
心に通院してくるのである。

「だって、私、主人を愛してるんですもの」。
淡々と、まるで他人事みたいな口調で説明し、「もし子どもができたら、あのひと、きっと家へ落ち着くと思うんです。だから、どうしても欲しくそんな非道、非常識な夫なのに、B夫人は「あの夫の子どもが欲しいから.…:」と、それは熱S夫人は、夫の浮気を感付いて以来、〃けがらわしい″と夫を一度も寄せつけなかった。それって……」
この夫婦、当然のことながらせいぜい月に一度ぐらいしかセックスがないという。これではいくら治療したって妊娠することはないだろう。
私は、むしろそこに〃女の意地″を見る思いがして、なんとなく心が暗くなった。
「あのね、奥さん。あなたは絶対に間違ってますよ。いくら〃子はカスガイ″といっても、これじゃ子どもは道具じゃないですか。
もし生まれても、ご主人が戻ってこなかったら、その子はふびんですよ」
こういう場合、夫はたいてい治療に協力しない。B氏も無論拒否した。夫婦の歯車がかみあっていないのだから、当然かもしれない。
再三の勧告でB氏がカウンセリングルームに姿をみせたのはもう半年もたってからだった。
「あなたの気持ちも理解できないことはない。だけど、奥さんの女どころをあわれと思ったら、一年間だけ私に協力してくださいよ」
少しは見込みありとみて、私は情に訴える方法をとった。夫と妻が「子どもをつくる」という一つの目標へ向けて共同作業をする。
不妊原因の究明、治療:::その繰り返しのなかで、たとえ少しずつでも互いに情(じよう) がわいてくるはずだ。
それが、狂った夫婦の歯車を元へもどすきっかけになるのではなかろうか……。

参考:

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