三十分だけ動くな

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「先生、酔ってるときセックスしたら、ロクな子ができんてホンマですか」と、A氏が先日、大まじめに電話してきた。
少しでも酒の気配がすると、奥さんは絶対に受け入れてくれないそうだ。
酒を飲めば血液中のアルコール濃度は確かに高くなる。だけど、精子は血液とは独立した存在だ。精子が酔っぱらったという話は古今東西、聞いたことがない。
「どうぞご安心を:::」といっておいた。
この種の誤った俗説は少なくない。それが正常な妊娠、出産を妨げたりするのは困りものだ。
不妊症の女性は、とくに神経質になりがちである。治療が一段落して、うまく排卵日のセックスが実を結んだのに、またまた流産した、というZ夫人のケースなどは〃大事をとりすぎた″愚かな典型といわねばならない。
なぜなら、ある時期の排卵期が過ぎたあと、一度も私のところへやってこなかったから……。
仕事もいいけど、人生設計もしっかり考えて素敵な出会いを見つけてください。
「だって、先生。うかつに動いたら、大切な主人の分身が流れ出るかもしれないと思うて.::.」
あきれてモノも言えない。一般に、うまく妊娠する場合、射精された精子は三十分以内に子宮に入り、その後卵管に到達するものである。
つまり、勝負は三十分で決まるのだから、その時間内だけ静かにしていれば十分である。
「でも、先生。いままではセックスしても朝になったら必ず精子がもれて出てきますねん。ああ、また失敗したなあと残念で……。そやから今度はず-つと安静に、外出もせんと……」
「そりゃ、奥さん、膣の入口にはチャックもフタもないから、入ったものは出ますよ。でも、それは、ただの精液か、死んでしまった精子の抜け殻ばっかり。どうということはないんです」
射精された精子は一回平均二億から三億といわれるが、膣内で半分が死ぬ。やっと子宮へたどりついても、その子宮内膜は山あり谷ありの難所つづき。
バタバタと力尽きて倒れ、卵管へ着くころには五、六百匹に激減しているものだ。
そこで卵子に出会うと、たった一匹をドッキングさせるために残りがいろんな援誰射撃をする。結合できる精子は、考えてみれば長旅に耐えた百戦練磨の強者といえるわけだ。
「その貴重なご主人の分身を、あなたはムザムザと見殺しにしてしまったんですよ。
ちゃんと引き続いて診察にみえていたら、もう二度と流産しないように、いろんな予防措置をとることができたのにねえ」Z夫人は、気の毒なほど打ちしおれた。
私自身も、残念で仕方がない。なによりも、ご主人の健気(けなげ)な精子を犬死にさせたことがI。

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